高血圧で死なない方法 〜学術論文に基づく最高の食生活シリーズ〜

◯学術論文に基づく最高の食生活シリーズ◯ 第1回

健康でありたいと願う人は多く、巷にも色々な健康法が氾濫していますが、果たしてそのうちどれくらいが裏付けのあるものなのでしょうか。
人間の生きるというプロセスは、食べ物・栄養なしには維持できません。そして、面白いことに、食べるものによって細胞の老化を防いだり、自然治癒力を高めて病気の進行を遅延・停止・改善させたり、寿命を延ばしたりすることができるのです。もちろん、そういったものは美容にもつながります。
ここでは、学術論文により効果の裏付けがなされている、いわゆるエビデンスに基づく食事方法に絞って紹介していきます。

 

[高血圧で死なない方法]

高血圧は世界の人間の死因のトップです。日本の高血圧の総患者数は2015年に1010万人、米国では毎年7800万人近くとされています。*1
年齢を重ねるごとに高血圧になりやすくなり、米国では60歳以上の65%が高血圧となっています。病気というよりかは、大半の人が歳を重ねた結果、否応なしに陥ってしまう健康状態なのでしょうか。実は、その認識は誤りであるということが、遡ること約90年前の研究で明らかにされています。*2

この研究では、ケニアにおいて1000人の被験者がホールプラントフード(未加工の植物)中心の食生活を続け、その血圧が測定されました。食生活は主にトウモロコシ、豆類、野生の葉物植物を含む野菜、そして果物からなりました。一般的には歳を重ねるごとに血圧が上昇しますが、なんとこの研究では下降していきました。

血圧は低い方が、健康へのリスクが低くなります(病的な低血圧を除く)。140台/90台以上で健康リスクが高くなるというのは独断的です。実験開始時に120台/80台であった人たちにも、血圧の低下による健康状態の改善が見られました。 *3 120台/80台の血圧であれば病院では褒められるかもしれませんが、それ以上下げても追加の利点は得られない理想的な血圧は、110台/70台ではないかと示唆されました。非現実的との印象を持つ方もいらっしゃいますでしょうが、上記1の実験で、十分に健康的な食生活をしている人たちの間では、それが通常の値でした。ケニアの地方の病院において、2年を超える期間で、1,800人の患者が受診しました。その中で、高血圧の症例はいくつあったと思われますか? 0人です。ということは、心臓病の発病率も低かったのでしょう。心臓病の発病率は、0でした。虚血性心疾患や脳血管疾患をもたらす動脈硬化の発症数も0でした。

中国の地方病院の例においても同様でした。一生を通して110台/70台を維持し、70歳でも16歳と平均血圧が同じという状態でした。 *4
アフリカと中国では食生活は大幅に異なりますが、共通点がありました。それは、日常的には植物由来の食事を食べ、肉は特別な行事があるときにのみ食べるということでした。食生活が植物からなるという点が予防に功をなしたと考えられるのは、米国心臓協会の指摘にもあるように、110台/65台と血圧が低いのは唯一、植物だけの食事(ビーガン食)をストイックに続けている人たちだけというデータがあるからです。

7番目の論文は日常的にビーガン食を続けている人たちの、最大規模の研究です。8万9千人のカリフォルニア居住者が対象で、非ベジタリアン食の健康にもたらす影響が、セミベジタリアン食(肉は週1程度)、ペスコベジタリアン食(魚を含む)、ラクトオーヴォベジタリアン食(乳製品と卵を含む)、ビーガン食(乳製品と卵を含まない完全な植物由来食)の影響と比較されました。これはキリスト教のアドヴェンティストという敬虔な宗派の人達を対象にした研究で、肉を食べる人達でも消費量は比較的少なく、果物や野菜の消費量が多い、運動をする習慣がある、煙草を吸わないという傾向が強いです。そのため、比較的健康な肉を食べる人達と比べても、食事における植物の割合が高まるとともに、高血圧の段階的な減少が見られました。糖尿病と肥満においても同様でした。完全な植物由来の食生活によって、ほとんどのリスクを一掃することができるのです。しかも、白か黒かというように二元的ではなく、改善の程度に従い、健康的な食事に近づけば近づくほど健康へのメリットとなるのです。

ベジタリアンの人達に肉を食べさせた実験があります。最終的に、血圧が上がる結果となりました。 *8

別の実験では、食生活から肉類を取り除きました。すると、わずか7日間で血圧が下がったのです。*9
しかもこれは、大多数が高血圧薬の服用を減量もしくは完全に止めてからのことです。もっと言えば、原因がなくなり、病気もなくなるので服用の意味がなくなるのです。服用を続ければ血圧が低くなりすぎ眩暈、転倒、怪我の恐れが出てくるので、処方をやめざるをえないのです。より少ない薬でより低い血圧、これが植物の力なのです。

では、米国心臓協会は肉を除いた食事を推奨しているのでしょうか?そうではなく、DASH(Dietary Approaches to Stop Hypertension)ダイエットというものを推奨しています。果物・野菜に富み、低脂肪の乳製品と飽和脂肪酸、総脂質量、コレステロール量を抑えた食事を摂るというものです。彼らは、6のHarvardのFrank Sacks氏による論文の内容を知らなかったのでしょうか。実は、食生活立案委員会の委員長だったFrank Sacks氏自体が、DASHダイエットを考え出しました。ベジタリアン食の血圧を下げる特性を持たせるという第一のゴールでしたが、一般の人に都合が良いように、動物性蛋白質をある程度含んだものがデザインされました。ベジタリアン食は大衆には受け入れられないだろうと判断したのです。

高血圧の危険因子には、言わずとしれた塩分摂取もあります。*10
日本人の塩分摂取量の目安は、男性で8.0g未満、女性で7.0g未満とされています。 *11
実は、植物に多く含まれるカリウムにはナトリウムを体外に排出させる作用があります。野菜の摂取により、ある程度過剰な塩分を体外に出すことができるのです。*12
ですが、血中のカリウム濃度が高まると高カリウム血症の危険性が高まります。高カリウム血症は致死的な不整脈を引き起こすこともあります。塩分に関してはカリウム摂取に甘えず、過剰摂取しないのが最適と言えるでしょう。*13

 

1.An Effective Approach to High Blood Pressure Control
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24243703

2.Blood Pressure In The African Native
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(00)49248-2/fulltext?version=printerFriendly

3.The Effects of Lowering LDL Cholesterol with Statin Therapy in People at Low Risk of Vascular Disease
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22607822

4.Blood Pressure Amongst Aboriginal Ethnic Groups of Szechwan Province, West China
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(00)86708-2/abstract

5.Dietary Approaches to Prevent and Treat Hypertension
http://hyper.ahajournals.org/content/47/2/296

6.Low Blood Pressure In Vegetarians: Effects of Specific Foods and Nutrients
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/3414588

7.Beyond Meatless, the Health Effects of Vegan Diets: Findings From the Adventist Cohorts
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24871675

8.The Relation of Protein Foods to Hypertension
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18739909

9.Effects of 7 Days on an Ad Libitum Low-Fat Vegan Diet: The MacDougall Program Cohort
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/0002934378900451

10.The Effect of High-Sodium and Low-Sodium Intakes On Blood Pressure and Other Related Variables in Human Subjects with Idiopathic Hypertension
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/629267

11.日本人の栄養摂取基準
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/eiyou/syokuji_kijyun.html

12.Association of Urinary Sodium and Potassium Excretion with Blood Pressure
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1311989

13.Life-threatening Hyperkalemia from Nutritional Supplements: Uncommon or Undiagnosed?
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21075579